見習い魔術師序章時はカルダムからヘルナスに移り、早316年。 主国であるカルトマーネの国は、花の月――栄花に入り、6日を経ていた。 丁度、花祭りの最中で、街は大きく賑わっていた。 さて。 妖精や幻獣、はたまた魔術や錬金術までが、当り前のものとして飛び交う この世界では、不思議なもの、不可解なものは数多くある。 この、カルトマーネの国にも。 『惑わしの森』。 国の最西部に位置するこの森は、その内部を知られていない。 なぜなら、この森に入った者の殆どは、いつのまにか森の入り口に戻ってくるのである。そのため、この森は自分の意志を持っているのではないかと噂されている。 しかし、その噂、あながち嘘ではない。 『意志を持つ森』は、惑わしの森の奥に、身を潜めているのだから。 『生きる森』。 それが、意志を持つ森の名である。 しかし、この二重の森は、ただの森ではない。 その深くにあるものを、そっと隠すように密集しているのだ。 隠されているのは、古い、小さめの・・・城。 その歴史は相当古く、本来ならばすでに朽ち果てているだろう。 何故朽ち果てないのか。 簡単である。そこには住人がいるのだから。 しかし、それだけではない。 その城には、密かに別名がつけられているのだ。 ――もちろん、その城を知っている者の間で、だが。 『魔法の棲家』とは、文字通り、城にはたくさんの魔法が住み着いているため。 安全なものから、それこそ死と紙一重の危険なものまで・・・。 そんな不思議な城からはじまった、ひとつの物語。 決して、誰の目にもとまらぬような、一人の見習い魔術師の。 そんな、ちいさな旅物語が、今。 静かに、その幕を上げる・・・。 |